はじめに
2025年8月10日、国土交通省は衝撃に弱く老朽化で破損リスクが高い鋳鉄製旧式上水道管(全国約1万km)の全面撤去方針を明らかにしました。京都市で2024年4月に起きた漏水事故を受け、安全確保と災害時の対応強化の必要性が高まりました。計画では、緊急輸送道路に敷設された管は2030年度まで、浄水場や配水池へつながる基幹管路は2035年度までの更新が求められます。全国の自治体には更新計画の策定と実施が要請されています 。
1. なぜ今、鋳鉄管の全面撤去なのか?
1960年代までに敷設された鋳鉄管は衝撃に弱く、老朽化によって破損リスクが高まりやすい構造です。2024年4月の京都市での漏水事故では、道路陥没や断水など重大な影響が発生し、改めて老朽インフラの脆弱性が浮き彫りになりました 。
国交省は「緊急輸送道路下での漏水は陥没や浸水を引き起こし、物流や人命救助に重大な支障をきたす」と強調し、「地震などで破損すれば大規模断水にもつながる」と述べ、早急な対策が不可欠との認識を示しました 。
2. 更新素材として注目の「ダクタイル鋳鉄管」とは?
耐震性・耐久性・柔軟性に優れ、老朽化鋳鉄管に代わる新たな主力管材として注目されています。自治体による置換が急速に進行しており、国交省の方針とも整合します 。
3. GX形ダクタイル鋳鉄管:施工の核心ポイント
(1)仕様と基本要件
- ポリエチレンスリーブによる全線被覆:土壌接触部は必ずポリエチレンスリーブで包み、防食・保護策とする 。
- 施工に携わる技術者の資格要件:配水管技能者登録証(耐震継手)、日本水道協会や日本ダクタイル鉄管協会による研修・登録証の保有が求められます 。
(2)接合の手順と管理
- 日本ダクタイル鉄管協会発行の「GX形ダクタイル鉄管接合要領書(JDPA W-16)」に従い、チェックゲージを現場に常備して接合作業を管理 。
- 切断管と直管・異形管の接合には、P-Link または G-Link(切管ユニット)を使用。誤接合を防ぐため、必ず管端の形状を確認してから接合することが重要です。G-Link は受口形状に関係なく使用可能ですが、普通鋳鉄管(CIP)とは接合不可である点に注意 。
- ゴム輪の形状が直管と異形管で異なるため、取り扱い時に留意が必要です 。
(3)曲げ角度と吊り・保管方法
- 許容曲げ角度:直管は設計時2°以下、施工時4°以下、異形管は0°。これを超える曲げは不可です 。
- 吊り具の使用法:ナイロンスリングによる2点吊りを原則とし、ゴム板等で外面を傷つけないよう保護 。
- 保管管理:管は枕木上に交互に積み、端に歯止めをし、ゴム輪は乾燥した屋内で保管し、油汚れやねじれ・曲げを避けて管理 。
(4)切管時の仕様と限界
- 専用機械で切断および溝加工を行い、挿し口リングをタッピンねじで固定する手順が示されています 。
- 継手性能はNS形と同等で、±1%の伸縮、呼び径Dによる離脱防止力(3D kN)、許容曲げ角度4°と地震時許容屈曲も確保されています 。
- 防食仕様として内外面の塗装体系(エポキシ粉体塗装・モルタルライニング・耐食外面塗装など)も詳細に規定されています 。
ロータリーパイプカッター(手動カッター)
① 管の固定と位置決め
- 切断位置をマーキング
呼び径に応じた寸法で、切断位置を墨出し(全周マーキング)。
→ これにより切断の直角精度を確保。 - 管を安定させる
地面や作業台に直接置かず、木枕木やローラー台で支持し、転がらないように固定。
② パイプカッターのセット
- ロータリーパイプカッターのローラー刃を切断位置に合わせる。
- クランプを締めてカッターを管に固定(このとき、刃が食い込み過ぎないよう注意)。
- 切断方向に干渉物がないことを確認。
③ 切断操作
- カッターを管の周囲に回転
最初は軽い力で1周回して刃の位置をなじませる。 - 徐々に締め込みながら回転
1周ごとにハンドルを少しずつ締め込み、刃の食い込みを増やす。
一度に締め過ぎると刃が欠けたり、管が割れる恐れがある。 - 一定の回転スピードで連続作業
焦らず、滑らかに回し続けることが重要。
刃がスムーズに切り込むよう、作業者は回転負荷を均一に保つ。
④ 切断完了と仕上げ
- 最後の1~2周は締め込みを弱める
→ 急な破断を防ぎ、切断面をきれいに保つ。 - 切断面の面取り
リーマーやグラインダーで内外面のバリを除去。
ゴム輪挿入部は特に丁寧に仕上げる。 - 切粉や破片を除去
管内部に切粉が残らないよう、エアブローや清掃を行う。
ヒンジドパイプカッターの使い方
- 作業前準備
- 切断位置を正確にマーキング(チョークやマーカーで一周線を引くと精度アップ)。
- 保護具(安全メガネ・手袋)を必ず着用。
- カッターのセット
- ヒンジドパイプカッターを開き、パイプに巻き付けるように装着。
- カッターのローラー刃がマーキング位置に均等に当たるよう調整。
- テンション調整
- ハンドルを回して刃を軽く食い込ませる。
- 最初から締めすぎると刃が欠けたりパイプが割れるので注意。
- 切断動作
- カッターをパイプの周囲で回転させる。
- 1~2回転ごとにハンドルを少しずつ締めて、徐々に刃を食い込ませる。
- ダクタイル鋳鉄管は硬いので、無理に一度で締め込まず、少しずつ切り進めるのがコツ。
- 切断完了
- 刃が最後まで食い込み、パイプが分離したらカッターを外す。
- 切断面のバリをヤスリやバリ取り工具で処理すると施工がスムーズ。
💡 ポイント
- ヒンジドタイプは開閉できるため、既設配管の途中でも装着可能。
- RIDGID 424-CI はダクタイル鋳鉄管に最適化された刃形状で、特に現場での迅速な切断に向いています。
- 水の入った管を切る場合は、切断位置の上下流の水を止めてから作業しましょう。
アサダ パイプソー380SPグリットソー仕様 の使い方
- 準備
- グリットソー(ダクタイル用刃)を本体に装着
- 保護具(ゴーグル・手袋・耳栓・安全靴)を着用
- 管をしっかり固定(ローラー台や枕木使用)
- 位置決め
- 切断位置をマーカーで全周マーキング
- パイプソーのクランプを管に固定
- 切断
- トリガーを引き、一定の速度で刃を回転
- 本体をゆっくり回しながら全周を切り進める
- 無理な押し込みはせず、刃の切れ味に任せる
- 仕上げ
- 切断完了後、バリをリーマーやグラインダーで除去
- 切粉を管内外から清掃
💡 ポイント
- グリットソーは火花が少なく、火気厳禁エリアでも使いやすい
- ダクタイル管でも割れや欠けを抑え、きれいな切断面になる
- 刃は摩耗が早いので、切れ味低下を感じたら早めに交換
4. まとめと展望
国土交通省による鋳鉄管全面撤去の方針により、2025年以降、水インフラの耐久性向上と災害対応力強化が国家的課題として動き出しました。GX形ダクタイル鋳鉄管は、その中核を担う更新素材であり、施工方法・資格・品質管理の整備が重要です。
自治体および施工業者は、更新計画の策定にあたり、技術マニュアルと資格体系を遵守し、堅実な施工と記録・検証体制を確立することで、将来の安全かつ災害に強い水道インフラの構築を目指すべきでしょう。
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