マンホール鉄蓋 MHD・MHA・MHBの違いとは?設置場所で変わる強度基準を徹底解説

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「駐車場に設置するマンホールの蓋を交換したいが、MHDやMHAといった記号が書かれている。どれを選べばいいのだろう?」
建物の敷地内で見かけるマンホールの鉄蓋には、様々な記号が記されています。特に「MHD」「MHA」「MHB」といった記号は、公共建築物の工事でよく用いられるものですが、その違いを正確に理解している方は少ないかもしれません。
これらの記号は、鉄蓋がどれくらいの重さに耐えられるかを示す「強度」を区分するための重要な指標です。本記事では、建設用金属製品の総合メーカーであるカネソウ株式会社が公開しているを基に、MHD・MHA・MHBの違いと、その背景にある強度基準について、専門家の視点から徹底的に解説します。

第1章:MHD・MHA・MHBの謎を解く – 記号が示す強度区分

まず結論から言うと、MHD、MHA、MHBは、鉄蓋が設置される場所で想定される車両の重さに応じて定められた強度区分です。これらの記号は、国土交通省大臣官房官庁営繕部が定める「公共建築設備工事標準図(機械設備工事編)」において規定されています。

カネソウ株式会社の資料によると、それぞれの記号が示す荷重条件と想定される車両は以下の通りです。

各記号の強度と用途

以下の表は、「公共建築設備工事標準図(機械設備工事編) 令和4年版」に基づく強度基準をまとめたものです。

記号T荷重想定される通行車両参考総重量解説
MHD・MHD-P
WPM-D・WPM-DW
T-20 グレードC大型トラック、バス20トン (20,000kgf)最も強度が高い区分。大型車両が通行する可能性のある場所(車路、駐車場など)に適しています。
MHA・MHA-P
WPM-A・WPM-AW
T-64トントラック、普通乗用車 (2001cc以上)6トン (6,000kgf)中程度の強度。普通乗用車や小型トラックが通行する駐車場などに使用されます。
MHB・MHB-P
WPM-B
T-2小型乗用車 (2000cc以下)2トン (2,000kgf)乗用車専用の駐車場など、比較的軽量な車両のみが通行する場所向けです。

T荷重とは?
T荷重は、道路橋示方書で定められた車両の荷重区分で、「T-20」は車両総重量20トン、「T-6」は6トンを想定した設計荷重を示します。この数値が大きいほど、より重い車両に耐えられることを意味します。

このように、MHD、MHA、MHBの選定は、「その場所にどのような重さの車両が通行するか」という一点に集約されます。例えば、消防車やごみ収集車のような大型車両が進入する可能性がある場所では、乗用車しか通らない想定でMHAやMHBを選ぶと、鉄蓋の破損につながる危険性があります。出典: カネソウ株式会社 鉄蓋製品 強度基準表

第2章:強度の根拠となる「SHASE-S 209」規格

前述のMHDやMHAといった区分は、より専門的な規格に基づいて定められています。その根幹となるのが、公益社団法人 空気調和・衛生工学会が定める「SHASE-S 209-2009(鋳鉄製マンホールふた)」という規格です。

この規格では、鉄蓋の強度を「安全荷重」と「破壊荷重」という2つの指標で定義しています。

  • 安全荷重: 鉄蓋が損傷することなく安全に使用できる上限の荷重。
  • 破壊荷重: 鉄蓋が破壊に至る荷重。安全荷重の4倍の値が基準とされています。

カネソウの資料では、このSHASE規格に基づき、鉄蓋の種類を「5000K」「1500K」「500K」といった形で分類しています。これが、T荷重(T-20, T-6, T-2)に相当します。

SHASE-S 209-2009に基づく強度基準

種類 (SHASE)対応するT荷重安全荷重破壊荷重加重体の大きさ想定車両
5000KT-2050kN200kN 以上φ330mm大型トラック、バス
1500KT-615kN60kN 以上φ170mm4トントラック、普通乗用車
500KT-25kN20kN 以上φ150mm小型乗用車

kN(キロニュートン)とは?
力の単位で、1kNは約102kgf(重量キログラム)に相当します。例えば、安全荷重50kNは、約5,100kgf(約5.1トン)の力に耐えることを意味します。

この表を見ると、MHD (T-20) が5000K、MHA (T-6) が1500K、MHB (T-2) が500Kの規格に対応していることがわかります。「加重体の大きさ」とは、強度試験の際に荷重をかける円盤の直径のことで、大型車両ほどタイヤの接地面積が大きくなることを想定しています。

第3章:さらに厳しい基準 – T-25とグレードについて

公共の車道など、より過酷な環境ではさらに高い強度が求められます。ここでは、T-20を超える「T-25」や、交通量に応じた「グレード」という考え方について解説します。

3.1. T-25:トレーラーや消防車を想定した最強クラス

T-25は、総重量25トンの大型車両(トレーラー、はしご消防車など)の通行を想定した強度基準です。これは主に、交通量の多い公道や、特殊車両が通行する可能性のある場所(幹線道路、物流拠点など)で採用されます。

カネソウでは、SHASE規格にはないT-25強度を「6250K」という社内基準として設定しています。

種類 (社内基準)対応するT荷重安全荷重破壊荷重想定車両
6250KT-25 グレードC62.5kN250kN 以上大型車両、トレーラー、はしご消防車

この基準は、公共建築物の敷地内であっても、きわめて重い車両の通行が想定される場合に選定されることがあります。

3.2. 鉄蓋の「グレード」とは? 交通量による分類

強度(T荷重)とは別に、鉄蓋には「グレード」という分類が存在します。これは「道路構造令」に基づき、設置場所の車両交通量に応じて定められています。

グレード設置場所の目安1日あたりの交通量
グレードA交通量の多い場所(国道など)4,000台以上
グレードB比較的交通量が少ない場所(市道など)4,000台未満
グレードC団地・工場敷地内、歩道など車両の通行が少ない場所(公道には不適)

注目すべきは、MHD、MHA、MHBが対応するT荷重の後にはすべて「グレードC」と記載されている点です。これは、これらの鉄蓋が公道ではなく、建物の敷地内や公園など、車両の通行が限定的な場所での使用を前提としていることを示しています。

たとえT-20の強度を持つMHDであっても、グレードCであるため、交通量の多い公道への設置はできません。強度とグレードは、鉄蓋を選定する上で両輪となる重要な基準なのです。出典: カネソウ株式会社 鉄蓋製品 強度基準表

第4章:下水道用鉄蓋の強度基準 – 異なる規格の世界

これまで解説してきたMHDなどの基準は、主に建築設備(雨水・汚水・雑排水など)のマンホールに適用されます。一方、公道の下に埋設される公共下水道用のマンホールには、また別の規格が存在します。

下水道用の鉄蓋は、公益社団法人 日本下水道協会が定める「JSWAS G-4」などの規格に基づいて設計されており、より厳しい安全基準が設けられています。

主な違いは、衝撃を考慮する点です。走行する車両が鉄蓋を通過する際の衝撃を「衝撃係数」として荷重計算に含めるため、同じT荷重でも建築設備用に比べてはるかに高い破壊強度が求められます。

T荷重基準・規格設置場所衝撃を考慮した
後輪一輪荷重
破壊荷重
T-25 グレードAJSWAS G-4-2023道路一般140kN700kN 以上
T-14JSWAS G-4-2023大型車の交通の少ない道路80kN400kN 以上

例えば、建築設備用のT-20(5000K)の破壊荷重が「200kN以上」であるのに対し、下水道用のT-25では「700kN以上」と、3倍以上の強度が要求されます。これは、不特定多数の車両が高速で通行する公道という過酷な環境を想定しているためです。

輪荷重の計算式後輪一輪にかかる荷重の計算例。車両総重量に係数をかけて算出します。

このように、マンホール鉄蓋と一括りに言っても、建築設備用と下水道用では準拠する規格も求められる強度も大きく異なるのです。出典: カネソウ株式会社 鉄蓋製品 強度基準表

まとめ:最適な鉄蓋を選ぶために

本記事で解説した内容をまとめます。

  1. MHD・MHA・MHBは建築設備用の強度区分
    国土交通省の標準図で定められた記号で、それぞれT-20、T-6、T-2の荷重に対応します。
    • MHD (T-20): 大型トラック・バスが通る場所
    • MHA (T-6): 4トントラック・普通乗用車が通る場所
    • MHB (T-2): 小型乗用車のみが通る場所
  2. 強度は「SHASE-S 209」規格が基本
    安全荷重と破壊荷重によって強度が定義されており、T荷重と連動しています。
  3. 「グレードC」は敷地内用
    MHD等はすべてグレードCに分類され、交通量の多い公道には使用できません。強度だけでなく交通量(グレード)も考慮する必要があります。
  4. 設置場所の確認が最も重要
    鉄蓋を選ぶ際は、カタログの記号だけを見るのではなく、「その場所にどのような車両が、どのくらいの頻度で通行するのか」を正確に把握することが、安全を確保する上で最も重要です。

マンホールの鉄蓋は、私たちの足元でインフラを支える重要な部材です。交換や新設の際には、本記事で解説した強度基準を参考に、設置場所に最適な製品を正しく選定してください。不明な点があれば、専門のメーカーや工事業者に相談することをお勧めします。

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