排水可とう継手・MD継手完全ガイド:種類、施工、選び方まで徹底解説

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目次

排水可とう継手とは?基本概念と必要性

建築設備において排水配管の信頼性は最も重要な要素の一つです。特に近年の高層化や複雑化する建物構造において、地震や温度変化による配管への負荷に対応するために**排水可とう継手**が欠かせません。その中でも最も普及している**MD継手**について、基本知識から施工方法、選び方まで詳しく解説します。

排水可とう継手は、排水配管システムにおいて**管の伸縮や建物の層間変位を吸収**する機能を持つ継手の総称です。従来の溶接継手やねじ込み継手は剛直な接続であるため、地震や温度変化による配管のずれや応力が発生すると、亀裂や漏水の原因となります。以下の図は、従来のねじ込み継手と可とう継手の構造的違いを示しています。

このような背景から、排水配管には「可とう継手」と呼ばれる柔軟な接続部品が採用されています。排水可とう継手にはさまざまな種類がありますが、中でも**MD継手**(Mechanical Drainage Joint)が最も汎用的に使用されています。

可とう継手の必要性は以下の通りです:

  • 建物の層間変位に対応:地震や風圧による建物の水平・垂直方向のずれ(層間変位)を吸収し、配管に過度な応力を与えないよう緩和します。
  • 管の熱膨張・収縮を吸収:排水温度の変化による管の伸び縮みを吸収し、熱応力による配管の破損や亀裂を防ぎます。
  • 施工誤差を吸収:配管の取付誤差や寸法誤差を吸収し、接続部の水密性を確保します。

以上のように、排水可とう継手は建物の安全性と配管寿命を延ばす重要な部品です。特に高層ビルや木造建築など、変形が起こりやすい構造には必須です。

MD継手の基本情報:定義と規格

MD継手の正式名称は**「排水鋼管用可とう継手」**で、日本金属継手協会の規格**JPF MDJ 002**によって性能や寸法が規定されています。「MD」は**Mechanical Drainage**の略で、「機械的に接続する排水用継手」を意味します。

MD継手は、主に建物の排水配管に用いられる鋳鉄製の継手で、管の熱伸縮や建物の挙動変化による配管の振れを吸収します。同時に、施工が容易で、熟練作業者でなくても短時間で組み立てられる点が特徴です。このような特徴から、MD継手は排水鋼管(SGP)や塩ビライニング鋼管(D-VA)、硬質塩化ビニル管(VP)など、多くの管種に適用可能な汎用継手として広く採用されています。

MD継手の構造は主に以下の図のようになっており、本体とフランジ部品、パッキン、ボルトナットで構成されています。

日本金属継手協会(JPF)は各種継手の品質基準を策定しており、MD継手もJPF MDJ 002で統一管理されています。この規格に基づき、各メーカーが製品を製造しています。

MD継手の特徴:メリットとデメリット

MD継手は従来の溶接継手やねじ込み継手に比べ、様々な利点がありますが、一方で注意すべき点もあります。ここでは主なメリットとデメリットを整理します。

✅ 主なメリット

  • 施工性に優れる:配管の拡管やネジ切り加工が不要で、モンキーレンチやスパナだけで締め付け可能です。溶接継手に比べて大幅な工期短縮とコスト削減が期待できます。また、ねじ込み継手のように複雑な組立作業も不要で、非熟練者でも短時間で施工できます。
  • 可とう性を持つ:地震や建物の層間変位による配管の振れを吸収し、応力を緩和します。また、管の熱膨張・収縮にも追従して漏水を防止します。この可とう性は、排水配管の信頼性向上に寄与します。
  • 多様な管種に対応:JIS G 3452の配管用炭素鋼鋼管(SGP)や、排水用塩ビライニング鋼管(D-VA)、硬質塩化ビニル管(VP)など、複数の管種に適用可能です。外径が同じであれば、異なる材質の管同士でも接続できる利点があります。
  • 改修工事にも適している:既存配管の切断や接続が容易なため、新築だけでなくリフォームや配管改修にも活用されています。施工後もユニオン継手のように簡単に分解・再組立できるわけではありませんが、必要に応じて部品を交換することでメンテナンスも可能です。

❌ 主なデメリット

  • 圧力配管には使用不可:MD継手は**重力排水**(自然流下)を前提とした設計です。ポンプで圧送する圧力排水配管には使用できず、この場合は「ロックエース」などの圧送用継手を選ぶ必要があります。圧力が加わるとパッキンが圧縮されてしまい、水密性が低下するためです。
  • 温度制約がある:流体温度は**-10℃~60℃**に限定されます。高温排水が頻繁に流れる厨房配管などでは、耐熱性を高めた特殊仕様(ナイロンコーティング品など)が推奨されます。また、温度変化が大きい環境では熱応力による影響を受けやすくなるため、配管設計上の配慮が必要です。
  • 腐食環境での劣化リスク:厨房排水やディスポーザー配管では硫化水素が発生し、硫酸による腐食が起こりやすいため注意が必要です。このような環境では耐食性に優れた高耐久タイプを選ぶべきです。標準のMD継手では、長期間の腐食環境下では継手本体が腐食し穴が開く恐れがあります。
  • フランジの締め付け管理が必要:MD継手はフランジをボルトで締め付けることで水密性を確保しますが、過度に締めすぎるとパッキンが破損したり、継手本体が変形してしまいます。適切なトルクで締め付ける管理が重要です。また、継手には差し込み代マーキングがありますが、これが十分差し込まれていないと抜け止め効果が減少します。

以上のように、MD継手は施工性と信頼性に優れますが、用途や環境によっては注意が必要です。次章では、具体的な用途と適用条件について解説します。

MD継手の用途:どこに使うの?

MD継手は主に**建築物の排水配管**に使用され、具体的な用途は以下の通りです。

  • 雑排水配管:台所、風呂場、洗面所、洗濯機などからの雑排水用配管です。日常の生活排水(食器洗い水、浴槽水、洗面水、洗濯水)を集めて排水本管へ導く配管にMD継手が用いられます。
  • 雨水配管:屋根排水や地表面排水用の配管です。MD継手は雨水を流す雨水配管にも適用可能で、豪雨時の排水処理にも対応します。
  • 通気配管:排水系統の臭気排出や通気を目的とした配管です。臭気が外部に漏れないよう通気配管が設けられており、MD継手はこの通気配管の接続にも使用されます。

これらの排水配管は、通常は重力排水(自然流下)であるため、MD継手の性能を十分発揮できます。一方で、以下のような用途ではMD継手は使用できません。

  • 圧送排水:ポンプで圧送する排水(例:マンションの高層階からの排水)には標準のMD継手は不適です。この場合は、圧力対応型の「ロックエース」や「IML-G」などの継手を選択してください。
  • 厨房の高温排水:台所排水は温度が高く、腐食性も強いため、標準のMD継手では劣化しやすくなります。このような環境では、耐熱性・耐薬品性に優れた高耐久タイプ(例:ナイロンコーティング品)を採用することが推奨されます。
  • ディスポーザー配管:台所の食器洗い機(ディスポーザー)に接続する配管でも、ディスポーザーの稼働時に発生する硫化水素ガスによる腐食リスクがあります。MD継手はこの用途には適していません。

上記のように、MD継手は一般的な雑排水・雨水・通気配管には最適ですが、特殊な環境では別途対応する継手が必要です。適切な継手を選ぶことで、排水配管の信頼性を高めることができます。

MD継手の施工方法:手順とポイント

MD継手の施工は簡単ですが、正しい手順を踏まないと漏水や耐久性の低下を招きます。基本的な施工手順とポイントを解説します。

1. 配管の切断と準備

  • 帯のこ盤などを使って管を**直角に切断**します。斜めに切断すると段差が生じ、漏水や腐食の原因になります。切断面にはバリが残っている場合があるため、スクレーパーやリーマーで除去し、**面取り加工**を行います。

2. 差し込み代マーキングと防錆処理

  • 管の差し込み長さ(差し込み代)をメーカー規定に基づいてマーキングします。このマーキングまで管を差し込むことで、十分な止水性能と抜け防止効果が得られます。
  • 管端の露出した鋼部分に、**JPF MP 006に適合する防錆塗料**(例:ヘルメシール30-V)を塗布します。錆の発生を未然に防ぎます。

3. フランジとパッキンの取り付け

  • 管にフランジとパッキンを挿入します。パッキンの向きや位置に注意し、正しくセットしてください。

4. 継手本体との接続

  • 管を継手本体に差し込み、マーキングがフランジ面に達するまで押し込みます。
  • ボルトを**交互に均等に締め付け**(片締め禁止)、メーカー指定のトルク値で固定します。過度な締め付けはパッキンの破損や継手の変形を招きます。

施工後の確認ポイント

  • 差し込み代マーキングが正しくフランジ面に達しているか?
  • ボルトの締め付けが均一で、トルク値が適切か?
  • 防錆塗料が管端全体に塗布されているか?

以上の手順を踏むことで、MD継手を正しく施工できます。施工後は満水試験を行い、漏水がないか確認することも重要です。

MD継手の選び方:用途に合わせた品種選び

MD継手にはさまざまな派生品種があり、用途に合わせて適切な製品を選ぶことが重要です。主な品種と特徴を紹介します。

標準型 MD継手

  • 特徴:エポキシ樹脂系粉体塗装(膜厚50μm以上)を施し、一般的な排水配管に適しています。本体の表面処理が施されているため、耐腐食性にも優れます。
  • 用途:住宅やビルの雑排水・雨水配管。厨房以外の通常の排水システムに広く採用されています。

耐食強化型(例:MD-NCジョイント)

  • 特徴:ナイロンコーティングを施し、耐熱性(60℃以上)や耐薬品性に優れます。厨房排水や温水排水が多い施設でも劣化しにくいため、腐食環境下での長期使用に適しています。
  • 用途:厨房排水や高温水が流れる配管(例:ホテルのキッチン排水、温泉施設の排水)。

圧送排水用(例:ロックエース、I-IML-G2)

  • 特徴:0.35MPa以下の圧力に対応し、ポンプ圧送配管に使用可能です。パッキンに鋼球が内蔵され、管の抜け防止効果が高いため、圧力環境下でも安定した接続が可能です。
  • 用途:高層マンションの排水圧送系統、ポンプアップ排水配管(例:マンションの屋上から地下タンクへの排水)。

ユニオン型 MD継手

  • 特徴:内側が平らなためやり取りができます
  • 用途:主に改修工事などで既設配管を修復する際に使われます

以上のように、用途や環境に応じてMD継手の種類を選ぶことで、より適切な接続が可能となります。たとえば、厨房排水には耐食性の高いナイロンコーティング品を、圧送配管には圧力対応型を選択するなど、メーカーのカタログ情報を参照して適切な品種を選びましょう。

Q&A:一般的な疑問に答える

最後に、読者の中にはMD継手に関する疑問を持たれている方もいるでしょう。そこで、一般的な疑問に答えるQ&Aコーナーを設けます。

Q: MDとKD-2継手の違いは?

A: パッキンの硬さの違いです。MDは硬め(ロックパッキン)、KD-2は柔らかめ(クッションパッキン)になります。どちらを選んでも接続する管は変わりません。施工される方の好みになります。

MD継手のパッキンは硬いロックパッキンで、抜け止めの効果が高い反面、取り付けには力が必要です。一方、KD-2継手のパッキンは柔らかいクッションパッキンで、接続時の力がかかりにくい利点があります。どちらの継手もJPF MDJ 002の規格品であり、適用管種は同じです。メーカーや施工者の好みによって使い分けられます。

Q: MDユニオンやCOS-TにはKD-2フランジパッキンは使えませんか?

A: 通常のKD-2フランジパッキンはMD-UやCOS-Tは面間が薄くて使えませんが、KD-2(MD-U,COS-T)用というフランジパッキンがあるのでそちらを使って下さい。

MDユニオンやCOS-Tなど、特殊な型式の継手には専用のパッキンが用意されています。通常のKD-2用パッキンは厚みがあり、これを薄い面間の継手に使うとフランジが閉じられずに締め付けできません。そこで、メーカーはMD-UやCOS-T用に**薄いパッキン**を提供しています。施工時には、使用する継手の型式に合わせたパッキンを選ぶことが重要です。

Q: SLA(排水鋳鉄管)について教えてほしい。

A: SLAは現在は廃盤となっている排水鋳鉄管の改修に使われます。鋳鉄管のパイプ(ボウズ管)に接続しソケットを挟んでもう片方をMDフランジ(KD-2)パッキンセットで接続し塩ビや鉄管等に変換します。MD-UはSLAのパッキンが分厚いため基本的には使用できません。

SLA(Standard Lead Free Annealed)は、古い住宅で使用されていた排水鋳鉄管の一種です。現在では新築では使われず、老朽化したSLA配管を塩ビ管や鋼管に改修する際に活用されます。改修方法の一例として、SLA管の端にMD継手のソケット(SLA接続用継手)を嵌め、もう一方をMDフランジ(KD-2)パッキンセットで接続する方法があります。この場合、MD-U(ユニオン型)は厚いパッキンが必要なため、SLA接続には基本的に使えません。

Q: 塩ビ管VUでも使用できますか?

A: VUでも外径は同じですがボルトで締め付けるため、割れる恐れがあるためVPを使用して下さい。

硬質塩化ビニル管には、**硬質塩ビ管(VP)**と**可撓性塩ビ管(VU)**の2種類があります。MD継手はVPにも適用可能ですが、VUには使用できません。VUは曲げ可能な塩ビ管で、強度が低いためボルトで締め付けると割れてしまう恐れがあります。そのため、MD継手を接続する場合はVP管を使うことが推奨されます。

Q: 廃盤になったメーカー(日立)などの本体にも使用できますか?

A: メーカーは基本ダメと言います。しかし規格が一緒なので合いますので現場責任で使用はできます。

過去には、日立製作所などがMD継手の本体を製造していましたが、現在は廃盤となっています。廃盤メーカーの本体を使用することは可能ですか? メーカーによっては品質や寸法にばらつきがあるため、一般的には推奨されません。しかし、JPF MDJ 002の規格に基づいていれば、同じ規格のフランジやパッキンで接続可能です。現場で必要と判断し、責任を持って使用することも可能ですが、品質管理上のリスクがある点に注意が必要です。

まとめ:MD継手は排水配管の信頼性を確保する鍵

MD継手は、施工の簡便さと可とう性により現在建築排水配管の主力継手として広く使用されています。その特徴を活かし、新築から改修までさまざまな場面で安心して活用できますが、**圧力配管への使用禁止**や**腐食環境での注意**など、用途や条件に合わせた適切な選定と施工管理が求められます。

排水配管のトラブルは建物の居住性や安全性に直結するため、継手の選び方や施工方法には十分な知識を持って臨みましょう。今回の記事が、MD継手の理解と適切な活用の一助になれば幸いです。

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