はじめに
「排水時にゴボゴボと音がする」「洗面台やトイレから悪臭がしてくる」「配管の通気管を屋外に出すと外壁が汚れる」──こうした悩みを抱える建物オーナー・施工業者は少なくありません。
これらのトラブルの原因はほぼ共通しています。排水管内の通気が不十分で、圧力変動が生じてトラップの封水が失われているのです。
従来の解決策は「通気管を屋外・屋上に開放する」ことでしたが、この方法には外壁汚染・臭気漏洩・配管スペースの確保など、多くのデメリットが伴いました。
この問題を根本から解決する製品が、**森永エンジニアリング株式会社の「ドルゴ通気弁」**です。
1974年にスウェーデンで開発され、日本では1983年に初導入されたドルゴ通気弁は、40年以上の使用実績と建築基準法認定に裏打ちされた、排水通気システムのスタンダード製品です。
この記事では、ドルゴ通気弁の仕組み・4大メリット・シリーズ別の特長・設置基準・型番の選び方・購入先まで、現場で役立つ情報を体系的に解説します。
排水通気の基礎知識──なぜ通気が必要なのか
ドルゴ通気弁の役割を理解するために、まず「排水と通気の関係」を把握しておきましょう。
排水管内の圧力変動
排水管内を水が流れると、水の重さと速度によって管内の空気が押し出され、管内圧力が変動します。
- 負圧(吸い込み):多量の排水が流れると、水の後ろ側に負圧(大気圧より低い圧力)が発生します
- 正圧(押し出し):排水が集中すると、下流側に正圧(大気圧より高い圧力)が発生することもあります
封水への影響
洗面台・トイレ・浴室などの排水トラップには「封水(ふうすい)」と呼ばれる水が溜まっており、これが悪臭・害虫の侵入を防ぐ「水の壁」の役割を担っています。
排水時に負圧が発生すると、この封水が吸い出されてしまいます(サイホン作用)。封水が失われると防臭・防虫機能がゼロになり、排水管からの悪臭が室内に逆流します。あの「ゴボゴボ音」は封水が吸い出される音です。
通気管の役割
この問題を防ぐために設けるのが「通気管」です。通気管は排水管とは別のルートから管内に空気を供給し、圧力変動を緩和して封水を守る役割を担います。
従来は通気管を屋外・屋上に開放する「外気開放通気方式」が主流でしたが、以下の問題がありました:
- 通気管の屋外開口部から臭気・虫が入ることがある
- 外壁・屋上が汚れる
- 通気管の配管スペース・施工コストがかかる
- 集合住宅やルーフバルコニー付き物件では開口位置の制約が多い
ドルゴ通気弁とは──屋内で完結する画期的な通気システム
**ドルゴ通気弁(Air Admittance Valve)**は、排水管に取り付けるだけで屋内に空気を吸い込んで通気を行い、通気管を屋外に開放しなくても封水を守ることができる「吸気型通気弁」です。
メーカー:森永エンジニアリング株式会社
ドルゴ通気弁を製造・販売するのは森永エンジニアリング株式会社(住宅機器販売部)です。1974年スウェーデン生まれのドルゴ通気弁を1983年に日本に初導入し、以来40年以上にわたって製品の改良・ラインナップ拡充を続けてきました。
建築基準法認定取得
ドルゴ通気弁は**1990年に建築基準法第38条の制度に基づき建設省(現・国土交通省)から認定(東住指発第490号)**を取得しています。「外気開放通気方式の開口部と同等以上の開口面積を持ち、気密性・排水性・耐久性・材質において安全性が確認された」として、公式に認められた通気システムです。
ドルゴ通気弁の仕組み──シンプルな4部品構造
ドルゴ通気弁の構造は驚くほどシンプルです。
4つの部品
| 部品名 | 素材 | 役割 |
|---|---|---|
| バルブドーム | ABS樹脂 | 通気弁の外殻・保護 |
| バルブシリンダー | ABS樹脂 | 弁の動作を案内するガイド |
| ゴムシール | EPDM | 逆止弁・気密シール |
| 可動盤 | ABS樹脂 | ゴムシールを支える可動部品 |
バネや磁石は使用していません。シンプル構造だからこそ、経年劣化が少なく約40年の使用実績において「経年劣化によるクレーム報告がない」高い耐久性を実現しています。
動作原理
【排水していない時(通常時)】
弁内部の圧力は大気圧と同じ状態です。ゴムシール+可動盤は重力で下がり、弁は閉じた状態を維持します。排水管内の臭気が室内に逆流することはありません。
【排水が発生した時】
排水が流れると管内に負圧(吸い込み)が発生します。弁内部の圧力が大気圧より低くなると、外部の大気圧がゴムシール+可動盤を押し上げ、弁が自動的に開いて室内の空気を吸い込みます。空気が供給されることで管内の負圧が緩和され、封水が守られます。
【排水が終わった時】
圧力差がなくなると可動盤・ゴムシールが自重で下がり、弁が自動的に閉じます。閉じた弁は排水管と室内を切り離し、臭気の逆流を防ぎます。
ドルゴ通気弁の4大メリット
メリット①:通気管の屋外開放が不要──建物外観がスッキリ
ドルゴ通気弁を使えば、通気管を屋上・外壁に開放する必要がなくなります。外壁に通気管の開口部を設けなくてよいため、建物の外観がスッキリします。外壁の汚染リスクや、開口部からの虫・臭気の侵入も防げます。
集合住宅のルーフバルコニー・ペントハウス付近や、隣家が近接して通気管開口位置の確保が難しい都市部の住宅で特に重宝されます。
メリット②:配管スペース・工期の大幅削減
従来の外気開放通気では、排水管に加えて通気管を屋上・外壁まで立ち上げる必要があります。ドルゴ通気弁を採用すれば、通気管の配管ルートが大幅に短縮され、配管スペース・材料費・工期のすべてが削減されます。リフォーム工事で通気管を後追い施工することが難しい場面でも、ドルゴ通気弁なら排水管に接続するだけで通気問題を解決できます。
メリット③:逆止弁構造で臭気を室内に漏らさない
ドルゴ通気弁は「吸気専用」の逆止弁構造です。空気を吸い込む方向にしか開かず、排水管内の臭気が室内側に逆流することはありません。外気開放型通気管では臭気が管を伝って室内に戻ってくることがありますが、ドルゴ通気弁ではその心配がありません。
メリット④:40年以上の実績に裏打ちされた耐久性
バネ・磁石を使わないシンプル構造と、ABS樹脂・EPDM・CRなど耐久性の高い素材の組み合わせにより、約40年の国内使用実績において経年劣化によるクレーム報告がないという驚異的な耐久性を誇ります。
ドルゴ通気弁シリーズ別解説
森永エンジニアリングのドルゴ通気弁は用途・設置場所に応じて5シリーズが展開されています。
① Eソケット付ドルゴ通気弁(JDE・JD)──屋内設置のスタンダード
**「世界中で信頼される屋内通気弁のスタンダード」**として1983年の日本初導入以来、最も広く採用されているシリーズです。
型番・サイズラインナップ
| 型番 | 呼び径 | 相当長 |
|---|---|---|
| JDE-40 | 40A | 1m |
| JDE-50 | 50A | 2m |
| JDE-65 | 65A | 3m |
| JDE-75 | 75A | 5m |
| JDE-100 | 100A | 7m |
| JD-125 | 125A | 32m |
**「相当長」**とは、このドルゴ通気弁1台で相当する通気管の長さを意味します。JDE-50なら「通気管を2m分設置したのと同等の通気性能」があることを示します。
主な特長
- Eソケット(着脱式ソケット)付きで点検・メンテナンスが容易
- 本体はABS樹脂製、ゴムシールはEPDM製で耐久性に優れる
- 防寒カバー(発泡ポリスチレン製)付属で寒冷地での凍結対策も万全
- 排水立て管頂部・排水横枝管ループ通気管など多様な設置位置に対応
主な設置場所
- 排水立て管(伸頂通気管)頂部
- 排水横枝管のループ通気管
- 集合住宅のパイプシャフト内
② 屋外設置用ドルゴ通気弁(JDEC・JDC)──ルーフバルコニー・屋外に対応
JDECシリーズはEソケット付ドルゴ通気弁にアルミニウム製カバーを装着した屋外設置専用モデルです。
主な特長
- アルミカバーが直射日光を遮断し、紫外線による樹脂劣化を防止
- 雨水・塩害・紫外線に対する高い耐久性
- ルーフバルコニー・住宅が近接して屋内に臭気が気になる場所での使用に最適
- 型番:JDEC-40〜JDEC-100(40A〜100A)、JDC-125(125A)
主な設置場所
- ルーフバルコニーの通気管末端
- 集合住宅の外部通路・屋外パイプシャフト
- 外壁面への通気管設置が難しい場所
- 屋外設置用(トップカバー付)
アルミ製トップカバーで直射日光や劣化を防ぎ、屋外やバルコニーの通気処理に最適。既存建物の臭気対策にも有効。
③ ドルゴ低位通気弁(LPD)──横引き管・ピット内通気に対応
LPDシリーズは、従来のドルゴ通気弁では対応が難しかった排水横主管・排水横枝管のピット内通気を可能にした製品です。
LPDシリーズ型番一覧
| 型番 | 接続方式 | 呼び径 | 特長 |
|---|---|---|---|
| LPD-50D | ソケット接続 | 50A | 標準タイプ |
| LPD-50E | パイプ接続 | 50A | パイプ直接接続 |
| LPD-75 | パイプ接続 | 75A | 大口径対応 |
| LPD-PICO | ソケット接続 | 50A | コンパクト・接着不要 |
主な特長
- 排水横主管・横枝管からの縦方向取り出しに対応
- 二重安全機能(逆流防止機構の二重化)で万全の逆流対策
- 複数の衛生器具が接続される排水横枝管の通気に最適
- LPD-PICOはさらにコンパクトで接着剤不要の脱着式
主な設置場所
- マンション地下ピットの排水横主管
- 店舗・厨房の排水横枝管
- 改修工事で既存の排水系統に通気を後付けする場合
④ ミニドルゴ──流し・洗面台の下(あふれ縁下)に設置可能
ミニドルゴは、日本初の衛生器具のあふれ縁下設置を実現した製品です(建設大臣認定取得)。
通常、通気弁は「器具のあふれ縁より150mm以上高い位置」に設置する必要がありますが、ミニドルゴは特別認定により流し台・洗面台のキャビネット内(あふれ縁下)への設置が可能です。
主な特長
- 台所(流し台下)・洗面台のシンク下に設置できる
- キャビネット内の限られたスペースに収まるコンパクト設計
- 取替工事・リフォームでの後付けが容易
主な設置場所
- 台所の流し台キャビネット内
- 洗面化粧台のキャビネット内
- 既存の排水配管に通気を後付けしたい箇所
⑤ ドルゴプラス──戸建・低層アパートの施工に特化
ドルゴプラスは、戸建住宅・低層アパートへの施工に特化したシリーズです。
戸建住宅の排水管規模・配管構成に最適化された設計で、施工の簡便性とコストパフォーマンスを重視した製品です。
シリーズ選定フロー
設置場所は屋内・屋外?├─ 屋内(パイプシャフト・天井裏・壁内) → JDEシリーズ(Eソケット付)└─ 屋外(ルーフバルコニー・外壁) → JDECシリーズ(屋外設置用)設置位置は?├─ 排水立て管頂部・横枝管 → JDE / JDEC├─ 横引き管・ピット内 → LPDシリーズ(低位通気弁)├─ 流し台・洗面台のシンク下 → ミニドルゴ└─ 戸建・低層アパート → ドルゴプラス設置基準と施工の注意点
ドルゴ通気弁の設置には、建築基準法の認定条件に基づいた基準があります。
サイズの選定基準
| 設置位置 | 選定基準 |
|---|---|
| 排水立て管(伸頂通気管)頂部 | 排水立て管の管径と同径以上 |
| 排水横枝管 | 排水横枝管の管径の1/2以上 |
設置高さの基準
排水立て管頂部に設置する場合:
- 床面から1m以上の高さ
- かつ、最上階における最高位器具のあふれ縁より150mm以上の高所
排水横枝管に設置する場合:
- 最上流の器具排水管を排水横枝管に接続した直後の下流側に取り出し
- その階における最高位器具のあふれ縁より150mm以上の高所
施工時の重要な注意事項
① 必ず垂直に取り付ける
ドルゴ通気弁は重力で弁が開閉するため、垂直設置が必須です。傾いていると弁の開閉が不安定になります。
② 隠蔽部設置時は点検口を設ける
パイプシャフト・天井裏・壁内などの隠蔽部に設置する場合は、必ず点検口を設けてください。メンテナンス・交換ができなくなります。
③ 正圧が発生する場所には設置しない
ドルゴ通気弁は「負圧の緩和(空気の吸い込み)」を目的とした製品です。排水管内で正圧が発生する可能性がある場所への設置は不可です。
④ 密閉空間への設置時は吸気口を設ける
気密性の高い小部屋・パイプシャフトに設置する場合は、ドルゴ通気弁が空気を吸い込むための外気吸気口を設けてください。密閉空間では負圧が解消されず正常に機能しません。
⑤ 高圧洗浄時の保護
排水管の高圧洗浄を行う際は、本体を外して止水プラグをするなど、過大な圧力がドルゴ通気弁にかからないよう配慮してください。
⑥ 寒冷地では防寒カバーを使用する
JDEシリーズには防寒カバー(発泡ポリスチレン製)が付属しています。寒冷地での使用時は必ず装着し、凍結による破損を防いでください。
よくある質問(FAQ)
Q. ドルゴ通気弁はどんな建物に使えますか?
A. 戸建住宅・集合住宅・商業施設・医療施設など、排水設備を持つほぼすべての建物に使用できます。新築工事・リフォーム工事・改修工事のいずれにも対応します。
Q. ゴボゴボ音が気になる場合、どのシリーズを選べばよいですか?
A. まず排水立て管の通気問題が原因か、横枝管の通気問題が原因かを特定してください。立て管の頂部通気が不足しているならJDEシリーズ、横引き管の通気問題なら**LPDシリーズ(低位通気弁)**が適切です。
Q. マンション改修工事で後付けできますか?
A. 既存の排水管に後付けで設置できます。Eソケット付のJDEシリーズはソケット部分でしっかり固定でき、既設管への接続も比較的容易です。設置スペースと点検口の確保を事前に確認してください。
Q. 寒冷地でも使えますか?
A. JDEシリーズには防寒カバーが付属しています。ただし、通気弁そのものが凍結するような極端に寒い屋外環境への設置は屋外設置用のJDECシリーズをご使用ください。
Q. ドルゴ通気弁の耐用年数はどのくらいですか?
A. 約40年の使用実績において「経年劣化によるクレーム報告がない」とメーカーが公表しています。ただし、過大な圧力・高温・凍結などの過酷な条件下では寿命が短くなります。定期的な点検をお勧めします。
Q. 設置後にメンテナンスは必要ですか?
A. 基本的にメンテナンスフリーです。ただし、隠蔽部設置時は年1回程度の動作確認を推奨します。Eソケット付タイプは本体の着脱が容易なため、清掃・交換がしやすい設計です。
まとめ
ドルゴ通気弁は、「空気を吸い込み、臭気を逆流させない」というシンプルな原理と、40年以上の使用実績に裏付けられた耐久性・信頼性を兼ね備えた、排水通気システムのスタンダード製品です。
シリーズ選定のポイント:
- 屋内(パイプシャフト・天井裏) → JDE(Eソケット付)
- 屋外(ルーフバルコニー・外壁) → JDEC(屋外設置用)
- 横引き管・ピット内 → LPD(低位通気弁)
- シンク下・洗面台下 → ミニドルゴ
- 戸建・低層アパート → ドルゴプラス
「ゴボゴボ音がする」「悪臭が気になる」「通気管の屋外開放を避けたい」といったあらゆる排水通気の悩みに、ドルゴ通気弁が応えます。




コメント